サイバーコミックスとゼネプロ時代(その3)

「原稿破って捨てたァ? まりのさんが?」
「ええ、俺びっくりしちゃいましたよ」
「どうして?」
「いや、聞いたら『もうこの原稿は要らないから』って。自分の納得できる出来じゃなかったからみたいです」
「そんな、もったいない-----まりのさんのナマ原なんて、欲しいヤツなんかいっぱいいるだろうに…」

原稿破棄事件は、まりのさんの彼なりの無言の抗議だった。
だがMをはじめ、編集長さえも彼の行動の真意は理解できていなかった。
仕方ないかもしれない。僕でさえ「まりのさんほどのレベルの人なら、そんなこともあるのかな」と考え、当初は誤解していたくらいだから。

まりのさんは後に僕には語ってくれた。
「そんなの、誰だって自分の原稿なんだから、捨てるなんて嫌にきまってるじゃないっすか。
あれは、Mへの抗議ですって。ンなもの、俺が描きたくもない仕事やらせてからに。だからアイツの目の前で破り捨てたんでスって。そりゃ俺はMとはトモダチだから、頼まれたら穴埋めだって代原だって引き受けますよ。けど、それに対してMが"お前、俺の描き手としての気持ちをわかってんのか?"ってことですよ」
エリアルコミックの4ページは、明らかにページ調整のためのものだった。友人として助けるのは仕方ない、当然だとしても、それはべつに『誰でもいい』ページだ。西崎まりのという作家をあえて使う必要がない。
まりのさんが言いたかったのは、表現者としての誇りだ。
残念ながら、Mは友人だという理由でそれを無視してしまった。だから仕事としては受けたが…ということだった。

このことは、ひょっとしたらまりのさんは僕くらいにしか話してないのかもしれない。

当初はそんなもんかなァと聞いていた僕であったが、以後ゼネプロ/Mから僕もまりのさんとまったく同様の状況に落とし入れられていく。



ある日、そのMから連絡を受けた。
「じつはちょっと申し訳ないんですけど…浦島さん、アシスタントをやってもらえませんか?」

当時ゼネプロでは1〜2名の作家がほぼ常にカンヅメとなって原稿を描いていた。
そのうちの一人、サイバーコミックスで「混淆なんたら」というオリジナル作を連載していたIという作家の手伝いをして欲しいとMが頼んできたのだ。
最初は僕のところにアシで来ていた那瀬智秀くんに行かせたが、次にはどういったいきさつかは忘れたが僕自身が行くことになった。
その那瀬くんからも聞いてはいたのだが、僕が行ってみて驚いた。
Iクンは、まったく仕事をしない漫画家だったのだ。